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ナツヨを母に会わせる(9)

 母は僕の意見に答えた。

「それじゃ、いつ来るか決まったら連絡ちょうだい。待っているわ。」

そして、ナツヨに向き直って話しかける。

「ナツヨさん、家に来たらリラックスしていってね。歓迎するわ。あ、そうそう、何か嫌いな食べ物ある?」

「何でも食べます。」

「そう。じゃあ、好きな食べ物は?」

ナツヨはクスリと笑った。

「何でもおいしいと思って頂きます。」

母もほほえんだ。

「それは頼もしいわね。じゃあ、こちらでいろいろと用意しているわ。楽しみにしていてね。

 今日はナツヨさんに会えて本当に楽しかったわ。私たち、相性も良さそうね。ナツヨさん、血液型は何型ですか?」

「ふふ、B 型なんですよ。」

「まあ、そうなの。B 型には見えないわ。こちらの家は A 型と O 型しかいないからちょっととまどうかも知れないけれど、でも、大丈夫よね。今日お話ししてとっても楽しかったもの。

 横浜もいいところだけど、私たちの住んでいるところもいいわよ。自然もあるし、神戸や姫路も近いから、連れていってあげられるわ。」

「是非呼んで下さい。私も楽しみにしています。」

デザートの皿が下げられたところで、母が言った。

「ナツヨさん、今日は来てくれてありがとう。このあとはどうされるの?」

ナツヨが僕の顔を見る。

「このあとは吉祥寺を少し散歩してから帰ろうかと思っているんだ。」

僕が代わりに答えた。

「そう、それがいいわね。井の頭公園もあるし。私はお姉ちゃんと一緒に家に戻るから。ナツヨさん、それじゃまたゴールデンウィークに。」

「はい。楽しみにしています。」
# by blgmthk | 2006-03-13 21:21 | お互いの両親に会う

ナツヨを母に会わせる(8)

「いつ頃来ていただけるかしら?」

母が尋ねる。ナツヨが僕の顔を見る。

 今は三月の終わりだ。もちろん早いほうがいいけれど、兵庫県の僕の実家に帰るのだ。すこし時間がとれるときの方がいいだろう。とすると…。

「ゴールデンウィークのはじめの頃はどうかな。四月の終わりくらい。」

僕は提案してみた。

「四月のはじめは年度始めでいろいろとごたごたするから…。その点四月も終わりになると仕事も落ち着くし、連休だしね。」

ナツヨは頷いている。母も、

「そうね、私たちもその頃がいいわ。パパも休めるし。」

と同意してくれた。

「ナツヨさん、ゴールデンウィークでよろしい?」

「ええ。」

「ゆっくりしていってね。何泊していっても構わないから。」

「あ、でも、最初から泊まらせて頂くのは申し訳ないから…」

「そんなことないわ。日帰りは大変ですよ。遠慮せずに家に泊まっていって。」

「でも、ちょっと…。」

ナツヨは困ったように僕の方を見る。

 ナツヨは何を遠慮しているのだろう。そりゃ、彼氏の両親の家に行くのは勇気のいることだろう。ナツヨの立場で考えると僕だってちょっととまどう。それでも、困るほどだろうか?それとも、女性だと泊まるのにいろいろと困ることがあるのだろうか?

 でも、その時の僕の頭には、母が泊まることを勧めているのだから、ナツヨにそれに従って欲しい、という願いがあった。よっぽどの事情があるのなら別だけど、そうでないのなら母の希望に沿うようにしたい。そうでないとせっかく良い母の機嫌が悪くなりかねない。母がナツヨにあらぬ疑いを抱くのも困る。母の涙に安堵しつつも、僕は警戒を解いていなかったみたいだ。

 ナツヨはなんだか助けを求めるような顔で僕を見ている。ふむ。まあいい。無理にナツヨを説得してこの場をややこしくする必要はないだろう。あとでゆっくり話し合おう。

「まあ、泊まるか泊まらないかは予定が決まってからでいいんじゃないかな。ナツヨと相談してみて、日付が決まったら連絡するから。」

僕はそうやって家に泊まるかどうかの話を引き取ることにした。
# by blgmthk | 2006-03-12 22:27 | お互いの両親に会う

ナツヨを母に会わせる(7)

 母は涙を流していた。みんな驚いて母を見つめた。

 涙を拭いて母は顔を上げ、語りだした。

「ごめんなさい。なんだかうれしくて…。」

そういって母は言葉を詰まらせる。

「ツユヒコがどんな女性を連れてくるのかなって思っていたの。そしたら、こんな素敵な人を…」

 母は涙に濡れた顔をなんとかほころばせそう続けた。

 母にはこみ上げてくるものがあったのだろう。僕と姉を生み、育ててきた。姉は結婚し、そして、今度は僕がナツヨを連れてきて結婚したいと言っている。この日のナツヨは母にとっても文句のつけようのないすばらしい女性だった。そのナツヨが自分の娘と良い雰囲気で話している。話題は子供の話。娘のお腹の中にいる初孫の話なのだ。母にとってみれば、これまで一生懸命に子供を育て上げた成果が初めて一同に会した、ということになるのだろう。もちろん子供が結婚していく一抹の寂しさはあるだろう。だけど、母の涙は喜びの涙に違いない。

 僕はほっとしていた。最初にナツヨを姉に会わせてなどと立てていた計画が狂って心配していたのだけど、それは杞憂だった。

 メインディッシュが下げられ、デザートとコーヒー、紅茶が並べられている。

 母は落ち着いたようだった。涙を拭き、ナツヨに話しかける。

「ナツヨさん、今日は本当に会えて良かった。」

ナツヨはそれに答えるように頷く。

「会ってわかりました。ツユヒコが本当にいい人を見つけたんだって。安心しました。

 ねえ、私たちの家にも来て下さる?ちょっと遠いけれど。」

「ええ、是非うかがいます。」
# by blgmthk | 2006-03-11 23:26 | 両親に報告する

ナツヨを母に会わせる(6)

 母とナツヨが話している間、姉が僕に小声で話しかけてきた。

「ねえ、ちょっと私のスズキと交換しない?ラム、おいしそうね。」

「いいけど。だけど、お姉ちゃん、本当はお腹が空いていてもっと食べたいんじゃない?」

「あら、わかる?そうなのよ。二人分食べないといけないからね。」

「だったらいいよ、一つあげる。」

「ありがと。」

そういって姉はフォークで僕のラムを突き刺し、自分の皿に持っていった。

 ナツヨが姉に話しかけた。

「確か、赤ちゃんがお腹に…?」

「ええ、そうなの。」

「見ただけだと、全然わかりませんわ。」

「まだ五ヶ月なので…。」

「つわりとか、どうでした。」

「それがひどかったんですよ。何も食べられなくなっちゃって。それに、住んでいるのがオーストラリアでしょ?いつもは平気なのだけど、つわりの時は食べたいもの、食べなれたものがが無くて困って…。」

「まあ、それは大変でしたね。それで、もう大丈夫なんですか?」

「ええ。逆に今はお腹が空いて空いて。」

「ふふふ、元気な赤ちゃんなんでしょうね。」

ナツヨが目を細めていう。

「男の子ですか?それとも、女の子?」

「聞いてないの。生まれるまでのお楽しみ。」

優しく自分のお腹をさすりながら姉は答える。ナツヨはさらに質問を続けた。オーストラリアでの生活はどうか、子供はどうやって育てるのか、名前は日本の名前にするのか、英語の名前にするのか。いろいろと聞かれながら姉はとても幸せそうな顔をしていた。

 ナツヨと姉の会話を聞きながら、やっぱり女性は子供の話になると盛り上がるものなんだな、と僕は思った。考えてみれば、結婚に関して姉はナツヨの先輩にあたるわけだ。赤ちゃんのいるお腹をなでながら幸せそうにほほえんでいる姉に、ナツヨが聞きたいことは山のようにあるに違いない。

 二人の会話を聞きながらそんなことを思い、視線を移してみると、母が目頭を押さえていた。
# by blgmthk | 2006-03-10 23:25 | お互いの両親に会う

ナツヨを母に会わせる(5)

 メインディッシュは肉か魚、肉は子羊で魚はスズキだった。母と姉は魚を、僕とナツヨは肉を頼んでいる。

 母はナツヨに話しかけていた。

「ナツヨさんは横浜の方なんですよね?」

「はい。そうなんです。金沢文庫に住んでます。」

「金沢文庫?」

「ええ。横浜から南に二十分くらいのところです。」

「まあ、そうなんですか。いいところなんでしょうね。海の近くかしら?」

「ええ。といっても、家から歩くと結構じかんがかかりますけど。」

「そう。それでも、横浜で海の近くっていうのはうらやましいわ。

 ところで、お父様はどちらにおつとめなのかしら。」

ナツヨは大手電機メーカーの名前を言った。

「そこの子会社で、経理の仕事をしています。」

「あら、お堅い仕事なんですね。」

「うふふ、でも、父はそんなにきまじめでもないんですよ。釣りが好きで…」

「釣りですか、素敵な趣味だわ。」

「小さい頃はよく一緒に連れていってもらいました。」

ナツヨは上手にナイフとフォークで子羊の肉を骨からはずしながら、母の話の受け答えをしている。ナツヨはいつもきれいに食事をする。僕はそんなにうまくナイフとフォークを使えない。僕には彼女がとても上品に見えた。

 そういえば、今日のナツヨはいつもより言葉遣いが丁寧だ。まあ、初対面の彼氏の母親に会っているのだから当然か。とはいえ、いつもよりも落ち着いたおしゃれをしていることも手伝って、今日のナツヨは、育ちの良さそうな雰囲気を漂わせている。。いつもにまして。いいことだと僕は思う。母の好みのタイプだ。ナツヨにとても良い印象を抱いているに違いない。

 母はナツヨからいろいろと話を聞きだしている。

「ナツヨさんはずっと横浜にお住まいなの?」

「いえ、大学は関西に行っていました。」

「あら、そうでしたわね。ツユヒコに聞きました。たしか、私立の K 大学にいらしていたとか…。」

「ええ。」

「どうしてわざわざ関西に行かれたんですか?」

「それは…、本当はこちらの大学に行きたかったのですけど、全部だめだったんです。ツユヒコさんほど優秀じゃなくて…」

「あら、K 大学も優秀ですよ。私、知っています。K 大学がどれだけ難しいか。」
# by blgmthk | 2006-03-09 23:27 | お互いの両親に会う