結納に関するごたごた(6)

 このことでナツヨといざこざを起こす必要はあるのだろうか?僕は結納をしようと言い、ナツヨはしないでも良いといっている。でも、元々は僕も結納をしないでおこう、と思っていたのだ。ナツヨの両親に思い入れがある、ということを聞いたので、結納をしよう、ということにしたのだけど、ナツヨがやりたくないのならやめにしてしまおうか。
 でも、と僕は思う。ナツヨの両親が、自分たちが出来なかった結納を娘にさせたい、というのであれば、かなえてあげたい。ナツヨのご両親に会って、僕は二人が好きになっていた。
 それに、最初は結納をやらない、と言っておきながら方針を変えた僕が、ふたたび結納をやらないことにする、と言った場合、母はどう思うだろうか。電話のことを思い返してみると、さらに話がこじれそうだ。ここまできたら、やっぱり結納をやる方向で進めた方が良い気がする。
 さて、よくよく考えてみると、ナツヨは結納をしたいと言っているわけでもしたくないと言っているわけでもない。無理やりここで決めてしまうことはない。日を改めて、ゆっくりとナツヨを説得することにしよう。
 僕はナツヨに言った。
「わかったよ、結納のことについてはもう少し考えてみよう。ご両親がどんな風に言っていたのか分からないけど、ナチュが構わないっていうんだったらたぶん結納を絶対しないといけない訳ではないと思う。」
ナツヨが頷く。
「ただ、結納をするのはそちらのご両親の希望なのはたしかだし、ナツヨだって別に結納が嫌なわけではないでしょ?」
ナツヨはちょっと納得いかないような顔をして、でも頷く。僕は続ける。
「もう少し考えてみようよ。結納をやるかどうか。いい方法を選択しよう。そして、良い結婚式にしようね。」
僕はその日ナツヨの両親に会う覚悟をしていた。でも、ちょっと気合いが入りすぎていたみたいだ。
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# by blgmthk | 2006-09-20 23:45 | ナツヨを実家に連れていく

結納に関するごたごた(5)

 ナツヨの言葉を聞いて、僕はむっとした。結納のことについてメールに書いてきたのはナツヨなのだ。最初は結納しないで構わない、と言ってくれていたのに、両親が結納について思い入れがあるなんてメールを書いてくる。その話に僕がどれだけあわてたか、分かってくれていない。

 とはいえ、そんな不満は心の中にしまっておいて、ナツヨに話した。

「そうなんだ。でも、お父さんもお母さんも結納には思い入れがあるんでしょう。だったら、できるだけやってあげようよ。」

「うーん、それはそうかも知れないけれど…」

ナツヨは考えながら言う。

「でもね、結婚式は私たちがやるのだから、別に私の両親の考えをそんなに気にすることは無いわよ。」

「それは正論だと思うけど、でもね、かならずしも僕達の思い通りに出来るわけでも無いでしょ?」

「どうして」

「どうしてって、たとえば、そうだな、結婚式の費用とか、僕達だけで工面する訳じゃないでしょ?」

「そうね。」

「だとしたらやっぱり親の意見も聞いておくべきじゃないかな。」

「そうかしら。確かにお金は出してもらうかも知れないけれど、親の結婚式じゃないのよ、私たちの結婚式よ。」

「その通り、主役は僕達だよ。だけどね、結婚式だと親も大事な役割を果たす訳じゃない。」

「なによ、また家と家の結婚って言いたいわけ?」

雲行きが怪しくなってきた。ナツヨと言い合いながら、僕は考えた。
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# by blgmthk | 2006-09-16 23:16 | ナツヨを実家に連れていく

結納に関するごたごた(4)

 父に確認を取った後、僕はナツヨへメールを書いた。

「結納のこと、両親に伝えました。昨日も言ったけど会えるかな?帰りに、僕が金沢文庫まで行くよ。」

ナツヨからは昼前に返事が来ていた。

「夕方に金沢文庫の珈琲館でどう?何時頃にこれるか教えてね。」

 定時ちょっと過ぎに会社をでた僕は、横浜で京急線に乗り換え金沢文庫に向かった。

 金沢文庫で電車を降りて思う。そういえば電車でこの駅来たのは初めてかも知れない。まあ、車でナツヨを迎えに金沢文庫に来たことはあるけれど。これから結婚するまでに何度この駅で降りることになるのだろうか。

 駅から数分歩くと、スポーツクラブの入った建物が見えてくる。その一階が待ち合わせの喫茶店だ。

 喫茶店に着くと、ナツヨはすでに待っていた。

「お待たせ。待った?」

「ううん、ちょうど今飲み物が来たところ。」

ナツヨの目の前にはジュースがおいてある。

「何飲んでいたの?」

「フルーツミックスジュース。」

僕もそれを頼むことにした。

「それで、今日は何?」

「あ、結納のことなんだけど。」

僕は両親に電話して、結納を行うことを確認したとナツヨに伝えた。もちろん、母が機嫌を損ねたことは話さずに。

「それでね、ご両親に説明にうかがいたいのだけど…」

「そんな、そこまでする必要ないわよ。」

「でも、結納をして欲しいって…」

「そんなにあわてること無いわよ。父も母も忘れているわよ。」
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# by blgmthk | 2006-09-13 23:35 | ナツヨを実家に連れていく

結納に関するごたごた(3)

説明を聞いて母は言った。

「わかりました。そちらのご両親がおっしゃるのならそうしましょう。」

僕はほっと息をついた。母は続ける。

「こちらはナツヨさんを頂く立場だから。あちらのご両親のお考えなら、その通りにしましょう。」

母の声は落ち着いていた。いつもより言葉遣いも丁寧だ。機嫌が悪いのだろう。

「でもね、」

と言い、次第に母の調子が変わってくる。

「こんなことじゃ、良くないと思うの。ツユヒコ、分かる?

 今回のことであちらのご両親から言われてトラブルになる、っていうことは、私たちがきちんとしていなかったからだと思うの。結婚に対する態度が。ツユヒコが結納をやりたくないと最初に言っておきながら、あちらのご両親に言われて方針を変えるのはあんまり良いことじゃないわね。」

だんだん母の声が険しさを帯びてきた。

「それにしても、なにかしら、たしかナツヨさんもそれに同意してくれたから結納をしないってことにしたのだと思うけれど。

 あちらのご両親も結納のことを持ち出してくるなんて、どういうことかしら、全く失礼しちゃうわ。ツユヒコ、気をつけるのよ。だいたい…」

 しばらく母の言葉を聞き、適当な頃合いを見つけて僕は話を切り上げようとした。母はまだ何か言い足りないみたいだったけれど、なんとか電話を切り、僕はため息をついた。

 電話を掛ける前から想像していたとおり、母は機嫌を損ねた。僕自身が怒られることはなかったけれど、母の怒りの方向があちらのご両親に向いていることが、より気がかりだ。この先、何もトラブルが起きなければ良いが…。

 次の日の朝、先日在宅していなかった父にも確認を取るためもう一度実家に電話を掛けた。父は最初、怪訝そうな相づちを打っていたけれど、「向こうのご両親がそうおっしゃるなら」と了承してくれた。

 とりあえず了承をもらい、ほっと僕は息をついた。でも、それは安堵のため息とは違うような気がした。
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# by blgmthk | 2006-09-09 23:50 | ナツヨを実家に連れていく

結納に関するごたごた(2)

 さて、面倒なことになった。一応こちらの親にも説明しておかなければならないだろう。

 母に電話するのはいやだった。結納をしないと言ったのは僕で、母はどちらかといえば結納をした方がいいのではないか、という意見だった。ナツヨの家で結納を執り行う、という条件で。

 母に電話をするとどんなことが起こるか、掛ける前からある程度想像がついた。でも、掛けないわけには行かない。

「もしもし」

「もしもし?ツユ君?」

「うん、ぼくだけど。」

電話を掛けてはみたものの、なかなかそのものズバリの話題に入っていくことが出来ない。しばらく世間話をした後に、本題に入った。

「それでね、…」

「どうしたの?」

「あのね、結納の件なんだけど…」

「なに?結納がどうしたの?」

「結納ね、やっぱりやることにしたいんだ。」

「まあ、どうしたの?良いけど、結納はしないって言っていなかった?」

「うん。だけど、やっぱりやることにしようかなって…」

「ちょっと、どういうこと?説明しなさい。」

母の声音が変わってきた。僕は一度つばを飲み込み、そしてナツヨからもらったメールの説明をした。ナツヨが彼女の両親から結納のことについて聞かれたこと。ナツヨの親が、結婚の時に彼らの両親といざこざがあったために、結納が出来なかったこと。

「そんなわけで、ナツヨのご両親は結婚について、思い入れがあるみたいなんだよ。だからね、出来れば結納をしておきたいな、と思っているんだ。」
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# by blgmthk | 2006-04-13 23:17 | ナツヨを実家に連れていく

結納に関するごたごた(1)

 ある日、ナツヨからのメールを読んでいて驚いた。

「…

 でね、結納のことについて父と母と話したんだけど、結納をしないって事は、特に結婚の用意をしないで良いことなのですか、嫁入り道具などを用意しないで良いということですか、って言われたの。

 それで、よくよく話をしてみたの。そしたらね、お父さん、お母さんと結婚するときにお父さんの両親とけんかして、ちょっと駆け落ちみたいな形になったんだって。後で仲直りして、なんとか結婚式は挙げたみたいなんだけど、それでもまだしこりがあるみたい。もちろん結納も出来なかったの。それで、私にはしっかりした結婚をさせたいみたい。」

 メールを読んで僕は泡を食った。そんなことが起きるとは思わなかった。聞いてないよ、と思った。

 結納ってそんなに大事なことだろうか。僕にはそれが理解できていない。親同士を会わせるのに、お金とか、昆布とかするめとかを用意して物々しく挨拶する必要があるのか。

 とはいえ、理解できないからと言って軽々しく片づける気にもなれなかった。逆に理解できないからかえって驚いたのかも知れないけれど。

 旧家ならともかく、ナツヨの家は普通のサラリーマン家庭だろう、そんなに、結納をしたりして、しきたり通りきっちりとしなくても大丈夫だと勝手に考えていた。でも、ナツヨのご両親にそんな結婚に関する物語があったのなら、それは尊重しなければならないだろう。

 さて、どうしよう。僕はナツヨに返事を書いた。

「メール読みました。

 結納のことだけど、了解しました。ご両親の意向を出来るだけ尊重したいと思います。ご両親にも説明に行きたいのだけど。明日、あえるかな?よろしく。」
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# by blgmthk | 2006-04-12 22:12 | ナツヨを実家に連れていく

ナツヨの両親に会う(7)

 ナツヨの親にあった報告と、ナツヨを連れて帰る予定の連絡のために、母に電話を掛けた。

「…

 それでね、結局ナツヨがそちらに泊まることにするって。」

「まあ、うれしい。歓迎するからね。で、何泊になるのかしら。」

「二泊するつもり。四月二十五日の金曜日にナツヨを連れて帰ります。二泊して、日曜日に横浜に戻る。」

「はい。二泊ね。でも、もう少し泊まっていっても良いのよ。そのあとすぐにゴールデンウィークでしょ?」

「うーん、まあ、ナツヨも最初だから。二泊くらいが良いんじゃないかな。緊張するだろうし。」

「そんな、緊張する必要なんて無いじゃない。ナツヨさん、うちの人になるわけだから、緊張なんてしてたら…」

「そりゃこちらは緊張しないけれど、でもね…。今後何度も帰るから、今回は二泊で良いでしょう。

 あ、それでね、ナツヨのご両親に会ってきたよ。」

「どうだった?」

「うん、楽しかった。会話も弾んだし…」

僕はナツヨの両親と会ったときのことを話した。

「そう。それは良かったわね。それで、ナツヨさんの家はどんなところだった?」

「ああ、お会いしたのはレストランだったよ。それが素敵なレストランで…」

「あら、家に呼ばれたのではなかったの?」

「うん。レストランで会った。」

「まあ、あちらのご両親、どういうつもりなのかしら?」

僕は思いだした。結納の事を話したときに、母がやけに相手の家のことについて気にしていたことを。そのときに、このことについては気をつけようと心に決めたことを。

 嫌な感じがした。

「ちょっとナツヨの家でいろいろあったみたいで…」

「いろいろってどういうことよ?」

「いや、まあ、くわしくは聞かなかったけれど、こんどお家に呼んでいただけるって言っていたから…」

「本当かしら。とにかくね、お家に呼べない事情が何かあるってことよ。ツユヒコ、気をつけなさいよ。あなたは本当に…」

「わかったわかった。とにかく、今度はお家にお邪魔できるから。大丈夫だから。」

「大丈夫じゃないわよ。家に呼べないってことは何か隠しているって事じゃない…」

母はなおも言い募る。延々と相手の親への不信感を口にする。十分くらい母の小言を聞いていただろうか。でも、僕にはもっと長い時間に感じられた。

 最後に母の言うことをのらりくらりとかわしつつなんとか電話を切った。

 電話を切ったとき、どっと疲れが出た。
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# by blgmthk | 2006-03-22 22:24 | お互いの両親に会う

ナツヨの両親に会う(6)

「お父さん、いい人だね。」

タクシーの中で僕はナツヨに話しかける。ナツヨはにっこりして頷く。

「とてもフレンドリーで話しやすかったよ。それに、お父さん、格好良いね。」

「えええええ、そうかなぁ。どこが格好良いのよ。」

「だって、ロマンスグレーで、顔が俳優みたいに整っているじゃない。」

「どうしたらそんな風に思えるの?チュ、おかしいんじゃない?」

「目元とか、やっぱりナツヨのお父さんなのかなって思った。」

「ちょっと、やめてよ、もぉ…」

言葉遣いはちょっと過激だけど、ナツヨの顔は満足そうにほほえんでいる。

「今日はチュもお父さんもおかしかったよ。どうしてずっと研究所のことを話してたの?あんなにくわしく話すこと無いじゃない。」

僕は苦笑する。

「いいじゃない。お父さんに勤め先の事がよくわかってもらえたんだから…。」

「何言っているの。建物の話したって仕方ないでしょう?それに、よりによってトイレの話まで…。初対面なのにあり得ないんだけど。」

言い募るナツヨを僕はまあまあ、と言ってなだめた。

「ねえ、お父さん、僕のこと気に入ってくれたかな。」

「もちろんよ。」

「急に、お、おまえなんかに家の娘はやらん!とか言い出したりしない?」

「ふふふ、大丈夫よ。お父さんもお母さんと同じで裏表のない人だから。」

「そう。じゃあ、安心かな。」

「安心して、安心して。チュなら大丈夫。」

「ありがとう。」

 タクシーは上大岡に着いた。ナツヨが金沢文庫に帰るのを見送る、と言ってはみたのだけど、いつものように言い争いに負け、ナツヨに見送られることになった。
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# by blgmthk | 2006-03-21 19:24 | お互いの両親に会う